『彼は他人のアイデアを盗む恥知らずだ』
かつて、アップルの創設者スティーブ・ジョブズはマイクロソフトのビル・ゲイツのことをこう罵りました。
対して、ビル・ゲイツはこう返しています。
『ゼロックスの家に押し入ってテレビを盗んだのが僕より先だったからといって、僕らが後から行ってステレオを盗んだらいけないってことにはならないだろう』
本題。
先日、ロビン・シック&ファレルの “Blurred Lines” がマーヴィン・ゲイの “Got To Give It Up” の盗作との評決が下され、約8億8000万円の支払いが命じられました。
このことを伝えたある日本の音楽番組では、
「曲が持つムードは似てるくらいの印象の曲が盗作と決めつけられてしまったという印象」
さらには、
「ほんとにこれが覆されないと、どんな曲を書いても盗作だと言ったほうの勝ちというとんでもないような先例になってしまいます。」
とコメントされていました。
訴えた側の言い分や、陪審員が判断材料としたことなど、どの程度の情報収集をされた上でのコメントかは全く不明です。
私は、「2013/07/06付 ビルボード Hot 100 トップ10解説」でも書いていますが、ファレルたちがインタビューで語った「”Got To Give It Up” に意図的に似せた」という発言を確認していました。
また、「2013/09/14付 ビルボード Hot 100 トップ10解説」では、約1200万円で和解を申し入れたものの断られたことも紹介しています。
なので、当然のことながら裁判になれば勝ち目はないと思っていて、実際にそうなりました。
このケースは決して「盗作だと言ったほうの勝ちというとんでもない先例」なんかではありません。
多くのアーティストがサンプリングという手法を使い、元ネタとなった曲のソングライターをクレジット表記、著作権使用料もきちんと払ってWin-Winの関係を築いています。
サム・スミスの “Stay With Me” のように、後からサンプリングを認めて然るべき措置を取ったケースもあります。
(単なる言いがかりは別として)訴えられるかどうかは、その曲がどれだけヒットしたかにもよります。裁判費用や勝訴して得られる賠償金(その曲で得られた収益の75%から100%)を考慮するからです。
予想以上の大ヒットとなり、訴えられたら以前に発言していたことは一切認めないという姿勢は、本音を隠したビジネス上の対応にしか思えません。
ロビン・シックは、裁判でキーボードを弾きながら『過去にはこんなに似ている曲がパクリとは言われなかった』と主張していますが、陪審員にはスピード違反で捕まった運転手が「あの車だって…」と言い訳しているようにしか聞こえなかったのかもしれません。
そんなことではなく、「すべての曲は意識の有無にかかわらず別の誰かの曲の影響を受けている。」「 “Got To Give It Up” 自体も○○に似ているではないか」と主張することができていれば、勝てる可能性はわずかながらあったのかもしれません。
冒頭のゲイツ氏のように。